もうすぐ年の瀬だ。家族揃って新年を迎えることを楽しみにしている人も多いだろう。しかし、警察、消防、病院といった我々のライフラインを支える仕事にはいつなんどきも休みはない。年末年始の病院でどんなことが起きているのか、現役医師とナースに取材した。



 24時間365日誰かが働いている病院だが、年末年始はやはり休みの人が多くなるという。



「今年のカレンダーだと通常の手術は26日の金曜日でおしまい。そこから先は、通常の土日と同じように緊急手術があったときのための最低限の看護師しか出勤し
ません。何人いるかって? オペ室ナースは2人だけですよ」と話すのは都内の某大学病院のオペ室に勤めるヨシミさん(30代)だ。



「だから、12月27日から1月4日までの9日間で出勤しないといけないのは1日、運が悪くて2日くらいです。出勤日は厳正なくじ引きで決めてます。誰も大みそかと元日に働きたくないですからね(笑い)」




 出勤する人をくじ引きで決めるのは医師も同じだという。



「医者はオーベン(指導医)と研修医も含むチューベン(指導医と研修医の中間的立場)以下の2つに分けてくじ引きをするよ。何か起きたらまずは看護師が対処し
て、医者が必要になったら若手が行く。それでもダメだというときになってようやく指導医が仕事する。だからオーベンは当直でも、ずっと寝ていられることも
あります」(40代・循環器科医)



 意外と気楽に聞こえるが、一刻を争う現場は決してそうではないという。



「年末年始は、すべての診療科の医師が当直としてスタンバイするわけじゃないし、できない検査もある。救急以外の病気で来られてもこちらも困るし、患者さんもベストな医療は受けられないと思ったほうがいい」



 例えば、こういうケースがあるという。



 
子供が顔をぶつけて裂傷を負ったとする。当然、救急外来で傷口を縫合してくれるが、糸の太さや締め付けのきつさ、間隔などは処置をする医師によってまちま
ちなのが現実だ。最悪の場合、傷痕が目立つ形で残ってしまうこともある。形成外科医がいれば、できるだけ術後に傷痕が残らないように縫ってくれるが、救急
外来にそうしたクオリティーを求めることはできないというわけだ。



 入院患者のいる病棟でも正月は通常と異なる部分があるという。



「お正月までに退院を希望される患者さんも多いですし、退院できそうだったり容体が安定している患者さんも年末年始だけは家に帰るケースも多いです。だから、一年の中でも比較的静かなタイミングですね」と話すのは病棟ナースのリエコさん(30代)。



「一応、元日には病院にいる患者さんと『あけましておめでとうございます』ってあいさつするんですけど、さすがに『今年もよろしくお願いします』とは言えませ
ん(笑い)。でもバリバリ働いている方がお正月に入院してたりすると、『まさか病院で過ごすとは思わなかった』みたいなことを言うので、なんだか特別な体
験を共有している気分になることがありますね」







さて、お正月に思い浮かぶ事故といえば、餠による窒息事故だ。消費者庁の調べによると、東京消防庁管内だけで5年間で608人が餠や団子を喉に詰まらせて救急搬送されている。そのうち90%を高齢者が占める。



「食べ物をのみ込んで、喉から食道を通って胃へと送り出すことを嚥下(えんげ)と言うんだけど、高齢になるとこの機能が低下するから、うまくのみ込めなくな
る。餠を詰まらせた場合、医者がやるのは気管内挿管とかで気道を確保しつつ、詰まった餠を吸引すること。僕は見たことないけど、餠が気管の中に入ってしま
う誤嚥(ごえん)で餠が気道に張り付いていたりすると大変らしい。高齢者だと命は助かってもこれがきっかけで誤嚥性肺炎になっちゃうこともあります」と話
すのは、30代の外科医だ。



 病院だってこれからの時期は“年末年始モード”。餠の詰まらせ事故をはじめ、なるべくお世話にならないよう日々をお過ごしください。