「アイフォン6のカメラがすごい」という声
[要約]
① メディアを支える仕組みが、アナログからデジタルに移行する流れのなかでも、カメラの形状は、大きくな変化をしなかった。
② ところが、スマホにカメラが標準搭載され、性能も格段に向上することで、「カメラを持つこと」や「写真をとること」の意味が変わってきている。
③ 最新のアップル製アイフォン6には、評価はいろいろあるが、カメラが優れているという声が多い。スマホがカメラ機能を強調することと、従来のカメラメーカーの売り上げが落ち込むことは、表裏一体だ。
「デジタル」は写真の意味も変えた
英語のPhotographという言葉は、Photo(光)とGraph(描く)の合成語だ。そもそも写真の原理は、感光素材に光をあて、化学変化
として定着させることだった。だから、英語の語感での写真を撮ることは、風景や人物の陰影を、「視覚イメージ」として捉えること、という意識が働いている
はずだ。「光の反応を楽しむ」のが写真だと言ってもいい。
日本語の「写真」という言葉の方は、「真実を写す」行為で、雰囲気や情感はともかく、一義的には、写実的な事実(ドキュメント)を志向しているよう
なニュアンスを感じる。もちろん写真の表現は多様だが、もともと日本では、加工や修正とはあまりなじまない概念だったのではないかと思う。
いずれにせよ、それらはアナログの時代の理屈で、デジタルメディア主流の時代に、写真のあり方は変化している。
スマホに高性能カメラが一体化したことの影響は大きいし、さらにそこに、加工したり公開したりする仕組みが加わって、言葉の本来の意味とは違った広がりを持ってきている。
新型アイフォンの売りはカメラ機能
アイフォン6が発売され、周囲にも、新機種を持つ人が増えだした。筆者は、これまでは、アイフォンの新製品がでるたび、りちぎに買い換えてきたアップルファンではあるが、今回は、大型化したデザインに心惹かれることもなく、様子見を決め込んでいる。
一方でそんな主観的な思い入れとは別に、新型アイフォンは、売れ行きがすこぶる好調だそうだ。
聞こえてくる一番大きな声は「カメラがずいぶん良くなっている」というものだ。スマホは複合商品で、じつにさまざまな機能が込められているが、どうも今回の新機軸は、カメラ性能の進化に収斂(しゅうれん)されている。
ちなみに、アイフォン6のカメラ機能は新しいOSと組み合わせることで、データ処理速度が速くなり、ピント合わせやレタッチ(撮影後の加工処理)のギミックが豊富になった。動画ビデオ撮影も操作性が向上し、タイムラプス撮影(こまどり)機能なども付加された。
そもそも、モニター画面が大きいので、こうした操作がしやすい。電話やメールの使いやすさを犠牲にしてでも、カメラ操作を優先して大型化を進めたということなのだろう。
「写真」は「撮ってすぐに公開する」ものへ
かつて写真を撮る喜びは「自分の経験を記録し、あとであらためて確認する」ことだった。自分で楽しんだり、親しい関係者に見せたり、あるいはプリントして配ったり、ということが、写真趣味の社会的な意味だった。
今は少し違う。「撮影してすぐに広くオンラインで公開」することにモチベーションが移行している。かならずしも相手を知っていなくてもいい。あとか
ら振り返るよりも、撮ったらすぐにアップする。スマホカメラは、SNSへの投稿行為とセットになっていて、そうした趣向に合致している。
フェイスブックなども、投稿に写真や動画をつける人がますます増えてきている。人気のInstagramなども(フェイスブック社に買収されたが)、登録数を着実に増やしていて、特に若い層にくいこんできているようだ。
「個人的な思い出」から「不特定多数に見せるために」というモチベーションが前景化している。その意味では、写真を撮る側に、写実性の重視よりも、加工や処理を加えたうえでの「作品化」の意向が強まっているのではないだろうか。
もちろん、一眼レフなどの専用機は、スマホよりも進んだ機能を持っている。けれどもいまや、電話を持ち歩くとき、かなりの性能を発揮するカメラが付随しているわけで、この手軽さはやはり、わざわざ、カメラ機材を持ち運ぶ面倒さを、駆逐する要因になっているのだろう。
カメラ機器は、日本のメーカーが、世界の市場をリードする時代が続いた(世界市場の8割は日本製が占めて、圧倒的な存在感を示している)。ところが、この数年の落ち込みようがかなり激しい。スマホのカメラの性能が格段に向上したことが原因であることも明らかだ。
カメラ映像機器工業会(CIPA)の統計〔公開資料〕より
産業的には大きな曲がり角を迎えている。これからどうなるかは、「写真」をめぐる社会意識に大きくかかっている。
(この原稿はyomiuri onlineの連載に多少手を加えたものです)。